World Cup 西野監督の孤独と覚悟
有本 博英 矯正歯科医
2018.06.30
どんな仕事にもプレッシャーというものはあると思いますが、サッカー World Cup 日本代表の監督が味わうプレッシャーはいかばかりか、ちょっと想像もつきません。少しでも調子が良かったら日本中から賞賛される反面、少しでも調子が悪かったらありとあらゆる叩かれ方をするからです。
昨日(6/28)のポーランド戦での日本代表は、引き分け以上で決勝リーグに進出決定という試合でポーランドに先制されてしまいます。この時点では、点を取って同点以上にするしかなかったのですが、同時に行われていたコロンビア=セネガル戦でコロンビアが1点取ったという情報が入ると事態が一変します。もしこのままポーランドに日本が負けたとしても、セネガルがこのままコロンビアに負けたままならばフェアプレーポイント差で日本が決勝リーグに進出できるとわかったからです。
キャプテン長谷部がピッチに上がり、おそらくこのことをチームに伝えた途端、日本は後方でパス回しをして、時間が過ぎるのを待つという戦術に出ます。そして、1次リーグですでに敗退が決まっていたけれども、どうしても一勝が欲しかったポーランドもあえて攻め込むことはせず、野球で言えば連続敬遠投球のような様相を呈する異様な試合となったのです。
結果日本は決勝リーグに進出できることになりました。試合には負けたけど、勝負というか駆け引きには勝ったということでしょう。
この異様な試合をするという決断をした監督の孤独と覚悟は相当なものだったと思われます。
まず、このような試合放棄とも取れるような異様な試合をして世間が放って置くはずがないのです。それは監督もわかっていたはずで、一つの試合として見た場合、このようなことはしたくなかったでしょう。そして、選手にもその責を負わせることになります。
サッカーファンの集団心理というのはある意味とても怖いもので、南米のチームなどでは失点した選手が殺されたりする事件が起こっています。セネガルが点を取らなかったから決勝リーグに出れるようなものの、もしこれでセネガルが点を取っていたら日本チームはどれだけ酷いバッシングを受けるか想像もつきません。
それでもあんなのはサムライではないとか、恥ずかしい試合をするなとか非難の声が上がり、ましてや世界各国からはもっと非難が殺到しています。これで決勝リーグの最初の試合相手のベルギーとどのような試合をするにしても、かなりアウェイの中での試合になるでしょう。
西野監督にとっては直前の監督就任と、最悪の前評判のなかで始まったW杯。
この試合、玉砕することを覚悟で攻め続けたほうががよほど精神的に楽だっただろうし、もしそれで決勝トーナメントを逃しても誰も責めなかったかもしれません。しかしこのパス回し戦略で、あえて確実に叩かれる道を選び、もし次不甲斐ない戦いをすれば、今以上に相当叩かれるのは必至の状況を作ったのです。それを意図してでも決勝トーナメントに進めた西野監督の、自らとチームを極限に追い込んだ戦略。
僕もこれを見たときは最初、なんだこんな試合するなよ、と忸怩たる思いでしたが、この監督の采配は未来に語り継がれる名将と言われるものになるかもしれません。決勝リーグでもぜひ頑張って欲しいですね。