スタッフの声

誰が責任を取るのか?

有本 博英 矯正歯科医

2015.07.22

こんにちは.有本博英です.

自転車のヘルメットみたいなデザインの新国立競技場建設予算が当初予定の1300億円から2500億円に膨れ上がった問題で,安倍首相はとうとう白紙撤回すると宣言する事態になりました.一体どうしてこんなことになったのか?

デザインを選んだ安藤忠雄は,

というようなことを言い,

東京オリンピック組織委員会会長の森喜朗は,

“元々あのデザインは嫌いだった,文科省が悪い”

というようなことを言い,

文科省は(文科省って具体的に誰だ?)無能で無責任などと言われている.

こんな国際的ビッグプロジェクトなのに責任者不在のままで,変な方向でも突き進む.これでは70年前に日本が崩壊へと突き進んだのと何も変わらないようですね。

でももしこれが患者さんの治療だったらどうでしょうか?

ある患者さんの治療について,医師は私は手術をするだけだと言い、スタッフはいわれた薬を出すだけだと言い、病院は現場のことはわからないと言い、結局それは保険制度(保険制度って誰だ?)が悪いとか,はたまた選んだ患者さんが悪いというような話が出たり,,,,そんなのでちゃんと治療が進むと思います?

患者さんの治療においては,診断をして治療方針を立て,治療を開始した医師がその治療の全責任を負うべきであり,スタッフはその治療方針のもとにチームでそれぞれ責任を持って全力を尽くす.そうでなくては治療がうまく進むはずもないと私は思います.

ところで,,

前回私は,インビザライン治療について,どこでやっても同じなどということはありえないと書きました.なぜなら,ドクターによって治療ゴールや治療方法,装置デザインなどが異なってくるからですね.

ところが,装置を作るためのクリンチェック作成をアウトソースするサービスがあるらしい.つまり,装置デザインを誰か別のドクターが代行して、治療を担当するドクターからお金を取るという、いわば B to B のビジネスです.

もちろん経験の少ないドクターが,経験豊富なドクターからどんなデザインにするか教えを請うというのは良いと思いますし、むしろ必要だとも思います.でもこの代行サービス,いったい誰が患者さんの治療の責任を取るつもりなのでしょうか?

製作を依頼されるドクターがいくら経験豊富であっても患者さんと会いもしないでただデータだけで矯正の診断ができるとは,僕には到底思えませんし,会ったこともない患者さんの治療に責任は持てますまい.

ではアウトソースするドクターが責任を取れるのかというと,自分のクリンチェック製作能力に不安があるから頼むのでしょうし,他人がデザインしたクリンチェックの意味もわからずに歯の動きに責任を取れるはずがありません.アライナーによる治療は,必ずしもクリンチェックの通りに進むというものではなくて,臨機応変にリカバーしていく能力も治療を成功に導くためには必要です.クリンチェック製作サービスをする,あるいはクリンチェックアウトソースサービスを頼むドクターはその患者さんの治療にどこまで責任を取るつもりがあるのでしょうか?

安藤忠雄という世界的建築家にして,私自身はそんなに大きなものを造ったことがないですからね。「(そんなに)要るんだな、すごいな」ということぐらいしか思っていなかった。などと言い訳しないといけないようなプロジェクトなら,最初から関わらなければよかったのにと思うのと同様,装置製作に責任を持てないような治療は最初からしないほうがいい.

国立競技場のゴタゴタを見て,ふとそんなことを思いました.

ではでは.

 
E-Smile,E-Life一覧へ
一覧へ

ToTop