レ・ミゼラブル( Les Miserables )で描かれる歯
有本 博英 矯正歯科医
2013.01.05
こんにちは、有本博英です。レ・ミゼラブル( Les Miserables ) のミュージカル映画を見てきました。この映画に今更何を言う事もありませんが、この名作の中で『歯』がどんな風に描かれているか、書いている人はいなさそうなので、メモしておきましょう。
まず、出演している俳優は当然皆歯ならびがキレイなのですが、社会の下層にいる人々の役の歯はすべて汚れたようにメイクされています。それが、上層に行くに従って歯は白くメイクされています。典型的なのはやはりジャンバルジャンで、冒頭の囚人の時と、マドレーヌ市長になった時とでは全く違います。
歯のクオリティを変化させる事でぐっとリアリティがでています。以前、映画アバターでナヴィ族の歯がみんなきれいすぎて、また人間の歯と同じで、ある意味リアリティに欠けたのですが、歯だけはきれいにしておかないとおそらくヒーローとして認知されにくいのでしょう。そのくらい、歯はディテールとして重要という事です。
そして、髪を売り、歯を売ってコゼットへの仕送りとしたファンテーヌ。映画では奥歯を抜いていましたが、原作ではもちろん前歯を抜いています。この部分がもし原作通りなら、今回最も胸を打つシーンである髪を切るシーンよりも、もっと迫力のあるシーンになったはずです。
参考までに、以下、原作より、元のファンテーヌから歯を抜かれたファンテーヌについての表現。
美しい歯をしたかわいらしい金髪の娘”、“ファンティーヌに至っては見るも喜ばしい女であった。そのみごとな歯並びは明らかに神から一つの職分を、すなわち笑顔を、授かっていた。
「大変なお金! どこからそんな金貨を手に入れたの。」「手にはいったのよ。」とファンティーヌは答えた。 と同時に彼女はほほえんだ。蝋燭《ろうそく》の光は彼女の顔を照らしていた。それは血まみれの微笑だった。赤い唾液《だえき》が脣《くちびる》のはじに付いていて、口の中には暗い穴があいていた。二枚の歯は抜かれていた。
少年ガヴローシュはテナルディエ夫妻の息子ですが、親に放置され、浮浪少年となっています。その浮浪少年を原作は、“がつがつした歯と美しい目”と表現しています。そして映画でも確かに歯を茶色くして、こう歌わせるのです。
「歯には悪いがかまわねぇ。」
つまりパリの浮浪少年は歯の事などかまっていられない、けれども歯が大切である事を知っているのです。
ちなみに私的に今回の映画で最も涙を誘ったのは、原作にはない、この少年ガヴローシュの胸ににジャベル警部が・・・原作にはないのでネタバレになるのでやめます。
何れにしてもすばらしい映画でした。まだ見ていない人はタオル必須でどうぞ。