非抜歯矯正治療は成長期の小児でこそ生きる
有本博英 矯正歯科医
2025.02.20
「子どもの歯並びを矯正するとき、できれば歯を抜かずに綺麗にしてあげたい」──多くの親御さんがそう願っているのではないでしょうか。イースマイル国際矯正歯科では、成長期(小児)の非抜歯矯正治療に30年以上取り組み、世界的権威から受け継がれた技術・理論を活かして、子どもの歯並びを綺麗かつ健康に導く治療を得意としています。今回は、その核となる「MOO(Molar Oriented Orthodontics)=臼歯を中心とした矯正治療」の考え方をご紹介します。
セトリンとグリーンフィールドの非抜歯矯正治療の流れを汲む“臼歯中心”の矯正
イースマイル国際矯正歯科では、ボストン大学臨床教授であったノーマン=セトリンの伝説的な非抜歯矯正治療と、グリーンフィールドによるCADテクニックを学び・発展させてきました。この流れをくむ当院独自の矯正アプローチが「MOO(Molar Oriented Orthodontics)」、つまり“臼歯を正しく位置づけることを中心に据える”考え方。すなわち私たちがMAGIC (Mystery of Arch development for Growing Intermaxillary Change (成長期の顎間関係に及ぼす歯列発育のミステリー))と呼んでいる方法です。
なぜ「臼歯の立て直し」が鍵なのか?
矯正治療と聞くと、前歯のガタガタや出っ歯・受け口など、目立つ部分ばかりに注目しがちです。しかし、かみ合わせの安定性を左右するのは奥歯(臼歯)。臼歯が正しく立っていなかったり、上顎臼歯の位置が前方寄りにずれていたりすると、顎の成長や歯列全体に影響を及ぼします。
そこでMOOでは、下顎臼歯がしっかり直立しているか、上顎臼歯が適切に遠心移動(後方移動)されているかなど、奥歯を正しい位置・向きに整えることを最優先します。こうすることで、自然な顎の成長力を活かしながら歯列を広げ、前歯を抜かずに整えられる可能性が大きく高まるのです。

内側・手前に傾斜した奥歯を成長期にまっすぐ立て直します。同時に顎顔面の発育を整えながら、矯正治療を行います。結果として前歯を前突させることもなく、綺麗に配列することができます。
成長期にこそ発揮される「非抜歯矯正」の大きなメリット
1)顎整形力の効果が高いタイミングで治療を始める
人間の顎は小児から思春期にかけて大きく成長します。その時期を利用して、**臼歯を立て直しながら受動拡大(自然な歯列拡大)**を狙えば、抜歯のリスクを大幅に下げることが可能です。
成長力が活きる期間
- 初期治療(7~8歳頃~10~11歳頃):上顎の横方向の発育を促す
- 本格治療(11~12歳頃~思春期成長に合わせて):歯列の前後・垂直方向の調整とアーチデベロップメント(約1~1.5年)
この時期に合わせて臼歯の位置をしっかり整えることで、思春期の成長スパートを最大限に活かせます。結果として、全体の歯並びを抜歯せずに綺麗に仕上げやすくなるのです。
2)約8割が小臼歯を抜かずに済む可能性
実際、イースマイル国際矯正歯科では、MOOの考え方に基づく成長期の矯正治療で、約8割の患者さんが小臼歯を抜かずに済んでいます。
もちろん「抜かないためだけに治療する」のではなく、最終的には**「歯槽骨の大きさ」「前歯の角度」「口唇のバランス」**などを総合的に判断して、どうしても抜歯が必要な場合はしっかり抜歯の道を選びます。ただ、「できる限り子どもの歯を温存したい」という方にとっては、この治療法は大きな選択肢と言えるでしょう。
MOOの考え方がもたらす治療ステップ
-
臼歯の位置づけ・アーチデベロップメント(約1~1.5年)
- 下顎臼歯をしっかり直立させる
- 上顎臼歯を遠心移動し、歯列弓を適切に拡大
- 横・前後・垂直方向に必要な矯正装置を選択
- 顎整形力を利用して歯列を整えやすい環境をつくる
-
思春期後半(13~15歳頃)の最終判断・前歯の排列
- 顎骨の成長がほぼ終わるタイミングで、抜歯・非抜歯の最終判断を実施
- 前歯が正しく傾斜しているか、口唇閉鎖に問題がないか確認
- 必要なら小臼歯抜歯や追加の治療を行い、きちんと配列
こうした二段階の治療ステップを踏むのが、イースマイル国際矯正歯科の特徴です。短期間で単に前歯を並べるだけではなく、まずは臼歯を中心に「土台を立て直す」ことで長期的にも安定した歯並びを目指します。
大人ではできないの? - MOOアプローチと成人の非抜歯矯正治療
「うちの子はもう成長期が過ぎてしまった」「大人でも同じように臼歯を立て直せる?」と気になる方もいらっしゃるでしょう。
MOOの考え方自体は成人矯正でも活用されますが、顎の成長が終わった後では受動拡大は期待できません。そのため、歯槽骨が足りない場合は歯周再生治療や外科的処置が必要になる可能性があります。言い換えれば、成長期のうちに臼歯を正しい位置に導く治療は、それだけ大きな恩恵があるということです。
いつから始めるといい? ―― 非抜歯矯正治療成功のカギはタイミングにあり
-
初期治療:7~8歳から10~11歳頃
- 上顎骨の横方向の発育を促し、将来のスペース不足や不正咬合を予防する
-
本格治療:11~12歳前後~思春期の最盛期
- アーチデベロップメントを中心に、臼歯の位置や前後・垂直方向の調整を行い、抜歯を回避できるか検討
-
最終判断:13~15歳頃(顎骨の発育がほぼ完了)
- 前歯のバランス、唇の閉じやすさなどを総合チェック
- どうしても前突が残る場合や歯槽骨に余裕がない場合は、抜歯を検討
“非抜歯ありき”ではなく、しっかりと成長を利用して臼歯を立て直したうえで「抜歯・非抜歯」を判断することが、長期的にみても良い治療結果を得るための最大のポイントです。
まとめ:非抜歯矯正のカギは「成長期×臼歯の位置づけ」
-
MOO(Molar Oriented Orthodontics)の考え方
- ノーマン=セトリン、グリーンフィールドの流れをくむ臼歯の位置付け重視の治療法
- 下顎臼歯の直立・上顎臼歯の遠心移動を最優先し、顎の自然な成長力を引き出す
-
成長期にこそ効果を最大化
- 思春期前後の顎成長を利用し、抜歯リスクを下げられる
- 当院では約8割の患者さんが小臼歯を抜かずに治療完了
-
大人でも同じコンセプトは使えるが制約が増える
- 歯槽骨が足りない場合は歯周再生や外科的処置が必要になることも
-
タイミングを逃さず“2段階”の治療ステップ
- 初期治療(7~8歳~10~11歳頃)で上顎の横方向を広げる
- 本格治療(11~12歳~)で臼歯を立て直し、歯列の3次元的発育を促す
- 最終判断(13~15歳頃)で抜歯が必要かどうかを確定
イースマイル国際矯正歯科は、長年にわたり成長期における非抜歯矯正治療に力を入れてきました。子ども達の将来を見据え、「しっかり噛める」「きれいに並んだ」「顔貌も整った」歯並びを目指し、必要に応じて抜歯の選択肢も含めながら最適解を導きます。歯科関係者でこの方法を学びたい方は、有本博英・賀久浩生・篠原範行著『非抜歯矯正治療 – Molar Oriented Orthodonticsの実際(医歯薬出版 2011)』をご覧ください。
もし、お子様の歯並びや成長についてお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。臼歯を中心に考え、成長期のパワーをフルに活かすことで、「なるべく抜かずに、長く続くきれいな歯並び」を叶えられる可能性があります。子どもの将来の笑顔のために、今がベストタイミングかもしれません。