【大人の非抜歯矯正】アライナーだけでOK?骨格・歯槽骨から考えた非抜歯矯正の目標
有本博英 矯正歯科医
2025.02.23
歯を削って並べるだけの“非抜歯矯正”って、大丈夫なの?
近年、マウスピース型アライナー(インビザラインなど)装置を使って、非抜歯で治療するという矯正治療が注目を集めています。確かにアライナーは良い装置ですが、使えるフォース(力)は“矯正力”の一種類のみ。大人の骨格や歯槽骨の制限を考えると、ただ少し奥歯を動かしたり歯を削ってスペースを作るだけでは将来的な歯肉退縮や口ゴボが心配になることも。
イースマイル国際矯正歯科では、MOO(Molar Oriented Orthodontics)の理論を大人の矯正にも応用し、「機能性・審美性・持続可能性」というオーラルパワーを獲得することを最優先に考えています。その結果、非抜歯で可能な場合もあれば、抜歯が必要な症例もあるという柔軟な診断が可能になるのです。この記事では、大人の非抜歯矯正治療における診断の重要性や多彩な“フォース”の組み合わせ方、そして実例について詳しく解説します。
目次
- 「少しだけ削って並べる」だけでは不安?
- 大人の非抜歯矯正に必要な“診断力”
- 子どもと大人の矯正の大きな違い:歯槽骨の成長余地
- 大人の非抜歯矯正で使う矯正力(フォース)の組み合わせ
- マウスピースだけでは限界?抜歯が必要な場合も
- 症例紹介:40代MSE+アライナー/40代アンカースクリュー+アライナー
- まとめ:オーラルパワーを目指すための最適解を
1. 「少しだけ削って並べる」だけでは不安?
最近のアライナー矯正では、「少し奥歯を広げて並べる」「エナメル質を少しだけ削ってスペースを作る」など、非抜歯をアピールするクリニックが増えています。しかし、そこにはいくつかのリスクや懸念があります。
- 歯槽骨と歯根の大きさのバランスが取れていない
→ 後から歯茎が下がったり骨が薄くなったりする可能性 - 切歯(前歯)の角度が不自然になり、口ゴボ気味になる
→ 唇が閉じにくく、ほうれい線が目立つ恐れ - 単に並べただけで将来的な安定性に疑問
→ 歯列後戻りのリスク
大人の骨格は子どもほど柔軟でなく、薄い歯槽骨に無理矢理歯を押し込むと、歯肉退縮や歯周病につながってしまいます。非抜歯治療を行うためには、土台(骨格)をしっかり考慮した診断が不可欠です。
2. 大人の非抜歯矯正に必要な“診断力”
▼ 歯の大きさと、骨格・歯槽骨の土台と、治療ゴールが適正かの見極めが重要
- 切歯の理想的な位置
前歯の角度が適正か、口元が自然に閉じれるのかを診断。 - 土台としての骨格形態・歯槽骨の厚み・高さ
骨が薄い部分に歯を動かす場合、歯周再生処置が必要なことも。 - ほうれい線が深くならないか、口ゴボにならないか
反対に、安易に抜歯してしまうと頬がこけたり、逆に抜かずに並べると前歯が突出しすぎたりする恐れがあります。
▼ 緻密で正確なシミュレーション
イースマイル国際矯正歯科では、CT・セファロ・歯列データを組み合わせた総合診断システムMoonAligner」を活用しています。MoonAlignerはMSEを開発したDr. Moonの元で、長崎大学の浜中遼先生が開発した矯正診断とアライナーデザインのシステムです。このシミュレーションを使うことで、どの方向にどれだけ歯を動かせば理想的な並び・口元になるか、3D解析によりシミュレーションできます。これにより、非抜歯治療が現実的かどうか?や抜歯した時にどうなるのか?など、必要なフォースの種類を様々な観点から予測し、計画できるのです。
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MoonAlignerによる3次元的解析とセファロ上での歯の動きの予測シミュレーション
3. 子どもと大人の矯正の大きな違い:歯槽骨の反応
- 子ども:成長コントロールにトライできる
顎整形力や受動拡大力で量・方向をコントロール。将来的に顎骨が成長し、歯列スペースを自然に確保できる場合が多い。 - 大人:成長は終了、制限が大きい
すでに骨格は完成。受動拡大力や、機能矯正の効果を得にくい。顎整形力は制限があるものの組み込むことができる。
こうした違いから、大人の非抜歯矯正では骨格と歯槽骨をどう扱うかがポイントになります。アライナーだけでなく、他の“フォース”を併用することが成功のカギです。
4. 大人の非抜歯矯正で使う矯正力(フォース)の組み合わせ
1)矯正力(アライナーやワイヤー)
歯を物理的に動かす基本的な力。歯が移動する際には周囲の骨が再形成され、歯を動かす=骨を作ることが可能。ただし、アライナー単独では大きな拡大や遠心移動が難しいケースも。
2)顎整形力(MSEなど)
- MSE(ミニスクリュー支台型拡大装置)
上顎骨を骨ごと拡大する手法。大人でもある程度の顎の拡幅が期待できる。 - 子どもほどの成長は見込めないが、骨格ポジションをコントロールするフォースとして重要。
3)歯周再生処置
- 頬舌方向への大きな移動や、歯槽骨が薄い箇所へ歯を移動する際に骨を再生させ、安全に歯を動かせるようにする。
- これにより歯肉退縮や骨吸収リスクを最小限に。
- 歯周病医との密接な連携治療を計画する。
4)外科的矯正(口腔外科・形成外科・美容外科との連携)
- 骨格的に大きなズレがある場合、顎の位置を手術で変える。
- 抜歯せずに済むこともあるが、手術のリスクや費用を伴うため総合的な判断が必要。
5. マウスピースだけでは限界?抜歯が必要な場合も
「マウスピースなら目立ちにくいし、簡単に並べられるんじゃないか」と思われがちですが、大人の非抜歯矯正はそう甘くありません。
- アライナーだけしか使わない場合、削る量が増えがちになり、歯自体への負担が大きくなる可能性があります。
- アライナーでは非抜歯治療が簡単と言われることがありますが、むしろアライナーだけできちんと非抜歯で治療するのは非常に難しいと思います。
- 骨格の問題でどうしても並びきらない場合は、無理に非抜歯にこだわらず、抜歯を選択したほうが結果的に自然な口元や歯周の健康を守れるケースもあります。
イースマイル国際矯正歯科では、最終的に機能性・審美性・持続可能性が高いかどうかを優先します。その上で、「可能なら非抜歯」「必要なら抜歯」と、柔軟に患者さんに提案し、一緒に考えながらゴール設定を行います。
6. 大人の非抜歯症例紹介
▼ 症例1:40代女性──MSEで上顎骨拡大→アライナーで非抜歯で排列
- 背景:上顎が狭く、小臼歯抜歯の提案を受けていた
- アプローチ:MSE(ミニスクリュー支台型拡大装置)で上顎を骨ごと拡大。その後十分なスペース確保後、アライナーで微調整し非抜歯で並べることに成功。
- 結果:骨格的にも歯槽骨的にも無理のない歯の排列で、歯茎に負担をかけずに審美性・機能性ともに向上。
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MSEで上顎を顎整形的に拡大した症例。完全に内側にあった2番が綺麗に配列されている。
▼ 症例2:30代女性──アンカースクリューを併用し、アライナーで非抜歯で治療
- 背景:上下顎とも前突ぎみで口元の突出感が強い。非抜歯で口元が整うのか不安。
- アプローチ:アンカースクリューを下顎臼歯部に設置し、これを固定源として上下歯列全体をアライナーで後方(遠心)へ移動。
- 結果:抜歯せずに前歯を下げることに成功し、口元の突出が解消。自然なEラインと噛み合わせを得られた。
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臼歯にアンカースクリューを設置し、アライナーで遠心移動しながら非抜歯で排列した。
7. まとめ:オーラルパワーを目指すための最適解を
- マウスピース(アライナー)で“少し歯を削って並べる”だけの非抜歯矯正は、将来の歯周リスクや口ゴボに要注意。
- MOO理論を軸に奥歯の位置づけを徹底し、MSEやアンカースクリュー、歯周再生などの多彩なフォースで“大人の骨格”を攻略。
- 3次元分析による緻密な解析で、歯槽骨と歯のバランスを見極め、非抜歯でも無理があるなら抜歯の選択も視野に入れる。
- ゴールはあくまでも“機能性・審美性・持続可能性”のバランスを最大化すること。抜歯の有無に固執せず、長期的なオーラルパワーを手に入れるための治療を行う。
大人の非抜歯矯正には慎重な診断力が不可欠です。もし、歯を削って並べるだけの矯正に不安を感じる方や、実際に抜歯かどうか迷われている方は、ぜひ一度イースマイル国際矯正歯科のカウンセリングへお越しください。あなたの骨格や歯槽骨の状態に合わせた最適解を見つけるお手伝いをいたします。
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