MSE で上顎を骨格的に拡大
有本博英 矯正歯科医
2018.01.30
MSE (Maxillary Skeletal Expander)
MSEというのはMaxillary Skeletal Expander(上顎骨骨格性拡大装置)の略。従来のHyrax型拡大装置に矯正用ミニスクリューを左右4本埋入し、より骨格そのものへの効果を期待する装置です。UCLAのMoon教授が開発されました。</>
上顎の骨は下顎と違って左右に分かれています。MSEはその右側と左側にそれぞれ2本ずつスクリューを入れて左右の骨が分かれるように設計されています。上顎骨と下顎骨の幅が大きく違うような場合に骨格性に上顎を広げるために使います。
このように骨の位置そのものを変える手法をオーソペディックアプローチ(orthopedic approach)、顎整形的手法と呼びますが、これは骨と骨がつながっている部分、縫合部を変化させる手法です。
なぜ骨格的に上顎骨を広げる必要があるのでしょうか?
上顎歯列を拡大するのにはいろいろな方法があります。一番簡単なのはいわゆる床矯正と言われる取り外し式の装置を使うもので、多くの一般歯科の先生がされています。これは歯に弱い力をかけるので、骨が広がるわけではなく、歯が傾斜して歯列が拡大されます。
上顎の歯を傾斜させる程度で下顎の歯とバランスが取れる程度であれば問題ないかもしれませんが、この方法で大きく拡大すると土台の骨よりも外側に歯を位置付けてしまったり、外側に大きく傾斜させてしまうことがあります。
そのような場合、長期的には歯槽骨にダメージを与え、歯列が安定せず、歯肉退縮などの問題を起こすのです。
ペンシルバニア大学の故バナルズダル教授は歯周病と矯正のダブルの専門医を持つ先生ですが、このような無理な拡大と歯周組織のダメージについて多くの研究・講演をされており、上顎歯列をorthopedicに拡大する重要性を常におっしゃられていました。(Semin Orthod 1999;5:171-180)
骨格的に上顎を広げる方法
成長期の、まだ骨が固まっていない10代前半くらいまでの段階ではミニスクリューがなくても骨格的に広げることが可能です。しかし、ハイティーン以降、大人の場合は外科的に上顎の骨を切って拡大し、骨の位置付けを変える方法がとられました。しかしこの方法は全身麻酔で入院して口腔外科医が骨切りを行うわけですから、患者さんの体への負担は相当なものです。
これに対してMSEは局所麻酔で矯正歯科医がミニスクリューを入れるだけで骨格的な拡大を可能にする、極めて簡便な装置です。子供だけでなく40代50代の患者さんでも上顎の骨格的な拡大が可能です。外科的処置のことを思えば患者さんの負担ははるかに少なく、確実な効果が期待できるのです。
MSE の応用
MSEは直接的には正中口蓋縫合という上顎の真ん中の縫合部を拡大するのですが、もちろん他の部分にも力がかかります。MSEと同時にフェイスマスクなどで上顎を前方に引っ張ることで、成長期の骨格的な受け口の治療などにも応用されます。このHPの初期治療のところ受け口の骨格補正として紹介しているのがMSEとフェイスマスクを使って骨格性の受け口を改善した例です。
また、上顎の天井は鼻の床ですので、上顎を骨格的に広げることで気道が広がり、鼻づまりが解消されて口呼吸の改善が見られたり、ひいてはイビキや睡眠時無呼吸の予防にもつながります。(しかし今回同室だったY先生のイビキは雷の落ちたようなイビキだったなー(笑))
開発者のMoon教授はこうした骨格性の受け口の患者さんや気道の変化に関する多くの論文を書かれています。私も多くの患者さんでMSEを使用していますが、去年行われた世界インプラント会議でその一部を発表させていただきました。
今回の別府勉強会では福岡の坂口先生が小児のMSE症例について、銀座の伊藤先生がMSEとマウスピース矯正(インビザライン・薬機法対象外)の症例について発表され、様々な工夫について勉強することができました。
さて、勉強会の後は臼杵まで足を伸ばしてふぐ料理をいただきました。これはもう、私の言葉で表現するには文章力がなさすぎますのでお写真を。MSE、インビザライン、ふぐ、温泉と充実した別府勉強会でした。そして次の日は朝から東京に飛びます。ではでは。
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